LPガス(プロパンガス)料金は都市ガスに比べてかなり高いイメージがあります。
それは、「住宅関連設備の無償貸与」という悪しき商慣例があったからです。経済産業省はLPガス料金の透明化のための指針を公表し、この商慣例をなくす方向で取り組む方針を公表しました。
今回は、LPガスの設備費用料金上乗せ禁止施策についての概要と、賃貸オーナーがとるべき対策についてご紹介します。

LPガスが都市ガスよりも高い理由

資源エネルギー庁の調査(平成25年度)によれば、LPガスの料金は都市ガスと比べると1.86倍高いそうです。
LPガスはガスボンベの運搬・設置費、戸別のガス管や警報機等の設置費用などがかかるため、都市ガスよりもガス料金が高くなるのは否めません。
しかし、ガス料金に1.86倍もの差がつくのは、これだけでは説明が付かないでしょう。

実際のところこの料金の差は、「設備費用の料金上乗せ」というLPガス業界の悪しき商慣例によって生み出されているのです。

設備費用の料金上乗せとは

LPガスの料金は基本料金とガスを使った分量に応じて加算される従量料金で成り立っていますが、物件によっては、ガス管等の設備費用が上乗せされています。
LPガスを設置するために必要な設備であれば仕方ありませんが、中には、エアコンや給湯器、宅配ロッカー、防犯カメラ、TVモニター付きインターホンなど、LPガスに関係のない住宅設備をサービス(無償貸与)し、その費用がLPガス料金に上乗せされている場合があるのです。

賃貸オーナーにとっては、無償で住宅設備を設置できるため、LPガス業者にあからさまにエアコンや宅配ロッカーの無償設置を求めるケースもありました。LPガス業者側としても、営業の一環として、無償で設置する設備をどんどん増やすことで契約件数を稼げるというメリットがあったのです。
LPガス料金はサービス事業者が自由に価格設定できることになっているため、これらの設備費用料金が上乗せされていても外からはわかりにくく、法的にも規制する手段がありませんでした。

設備費用の料金上乗せで困るのは入居者

LPガス料金に設備費用が上乗せされて請求されることで、一番困るのは入居者です。
入居時にLPガス料金が情報開示されることはなく、賃料の安さにひかれて入居したらガス料金が異常に高かったというケースもあります。
ある大学の生協の調査では、LPガスの料金の差が6,000円近くあった例もあるほどです。

LPガス料金を入居募集時に情報開示することは一般的ではなく、入居者がLPガス料金を比較検討することが難しかったため、入居後に提示されたLPガス料金を支払うしかなかったということも、料金上乗せがはびこった原因の一つに挙げられています。

LPガスの悪しき商慣例を一掃する施策

このような状況の下、2023年7月に行われた経産省のLPガスに関するワーキンググループにおいて、LPガス料金の透明化に向けた施策が打ち出されました。
新たに罰則規定も設けられる見込みとなっており、かなり実効性のある取り組みになりそうです。

経産省ワーキンググループにて施策を公表

経産省の発表によれば、今後は、LPガス料金の基本料金・従量料金・ガス関連設備料金の内訳を明示することを義務付けるとともに、LPガスに関係のない設備費用の上乗せを禁ずるよう関係省令を改正する方針とのことです。
2027年度からの施行を目指して、今後関係省庁と連携しつつ、新しい制度設計に取り組んでいくことが公表されました。

これによって、設備料金が上乗せされて高額だったLPガス料金は、かなり下がることが予想されます。

LPガス料金透明化に向けたその他の取り組み

入居者は、事実上LPガスサービス業者を選択することができず、物件に設置されたLPガスを利用し、請求された料金をしはらわなければなりません。入居前にLPガスの料金が開示されない商慣例があることは、入居者にとって不公平です。
そのため2021年に、国交省から宅建業者や不動産関連団体に対し、入居前にLPガス料金の情報提供をするよう依頼文が通知されました。あわせて経産省は、LPガス業者に、賃貸物件のオーナーや不動産管理会社にLPガス料金についての情報提供を行うよう求めました。
今回の施策は単なる情報提供の依頼にとどまらず、罰則規定を設けた踏み込んだ規制になっていますので、LPガス業界と賃貸オーナーは対策を迫られている状況です。

省令改正が賃貸オーナーに与える影響

具体的な改正省令の内容についてはこれから明らかになっていく見込みですが、無関係な設備費用の上乗せが禁止されることで、賃貸オーナーに少なからず影響が出てくることでしょう。
今までガス料金で負担していたエアコンや給湯器などの設備があれば、今後どうなるのかをLPガス業者を協議する必要がありそうです。
また、LPガス料金の設定によっては入居募集に影響が出そうですし、場合によってはLPガス業者の変更を検討しなくてはならないかもしれません。

設備費の負担が増加する可能性

不当な設備費用分の料金上乗せが禁じられれば、今後はサービスで設置してもらっていた設備について賃貸オーナーが負担しなければならなくなります。
いわば、正常の状態に戻ったといえますが、費用増加分を家賃に反映できるかどうかは大きな問題です。
家賃の設定は周辺の家賃相場をみながら対応を考えることになりますが、最悪の場合、家賃は据え置きということになるかもしれません。
また、LPガス業者にとっては、現在設置している設備についての費用をガス料金で回収できないことになるので、差額分を賃貸オーナーに負担してもらう交渉をしてくることが予想されます。早めにLPガス業者と対応を協議しておくのが無難です。

LPガス料金の価格競争力が入居募集に影響

今後はLPガス料金の情報開示が進み、不当な料金上乗せが行われていないかについての監視の目が厳しくなるでしょう。
入居者の物件選びの際には、LPガス料金が高いか安いかが大きな判断材料になります。
そうなればLPガス料金についても価格競争が起こり、料金が下がらない場合には、LPガス業者を変更することも検討しなければなりません。

契約内容によってはガス会社の変更時に違約金も

LPガス業者を変更する際には、現在の契約内容がどうなっているのかを今一度確認する必要があります。中には、契約解約時に、高額の違約金を請求されてトラブルになっているケースがあるようです。設備料金の上乗せが商慣例になっているために、簡単に契約解除されては困ることから違約金条項を盛り込んでいることが多いようです。
物件の規模が大きければ大きいほど、解約時のトラブルは大きくなりがちですので、前もって弁護士等の専門家に相談してみるのが良いでしょう。

今後の動向に注目しつつ早めの対応を

設備費用の上乗せ禁止の方針はまだ公表されてから日が浅いため、具体的な対応はこれからという人が多いでしょう。

まずは、契約先のLPガス業者と今後の見通しについて協議し、LPガス料金、設備費用、家賃の見直し(または据え置き)を盛り込んだ事業計画を作成しなおすことが求められます。改正省令の施行までにはまだ時間がありますので、落ち着いて対応しましょう。

このブログを書いた人

コンスピリート・ブログライター
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